モータドライバの設計方法①
1. 導入
今回はモータドライバについてです.モータを動かすための回路をモータドライバ(以下MD)と言い、ロボットの移動系に使うものはコスパの面からみて自作がほぼ必須になります.原理や設計方法などを私自身が制作したMDの紹介も踏まえながら説明していきたいと思います.
2. 使用するモータ
一口にモータといっても多くの種類や分類がありますが、自作のロボットの移動系に使うモータはブラシ付きDCモータ(以下DCモータ)がベーシックです.その中でも入手がしやすいタミヤのギアボックス付きモータや、マブチのRE/RSシリーズ、朱雀技研のPololuシリーズなどが有名です.今回は回転速度がわかるセンサや減速機が一体になっていて便利な朱雀技研のPololuシリーズを想定して進めていきます.
DCモータは安価である上に構造と仕組みが単純で、端子間に電圧をかけるだけで動作するので制御がしやすくよく使われています.
図にDCモータの構造を示していますが、簡単に言えば、端子間に電圧を加えるとコイルに電流が流れ電磁力が発生し、ブラシと整流子がいい感じに切り替わってシャフトが回転します.ちなみに、DCモータの力強さを表すトルクは電流に、回転速度は電圧に依存しています.なので、高トルクなMDにしたいのであれば耐電流を大きく、高回転であれば耐電圧を高く設計をする必要があります.
3. MDの原理
MDはDCモータの正転逆転や回転速度を制御します.そしてそのように制御するためにはモータの端子間電圧値を正負を含めて操作できるようにならなければいけません.そのために最も用いられる構成の回路をHブリッジ回路といいます.
図のように、モータの端子ABがそれぞれ電源の両端にスイッチで接続されています.SW_1とSW_4をONにしたら電圧はAB方向に、SW_2とSW_3をONにしたら電圧はBA方向にかかるので、正転逆転が可能になります.次は速度です.
図に示すようにDCモータの等価回路は、直流に接続されている抵抗Rとコイル(インダクタンス)Lで構成されています.ここでHブリッジ回路のスイッチを操作して、端子間電圧V_ABを電源電圧12Vと0Vに交互に繰り返してみて、抵抗Rの出力電圧V_outの波形を見てみます.
図を見ると、端子間電圧V_ABがON/OFFはっきり切り替わっているのに対し、出力電圧V_outは切り替え時(立ち上がり/下がり)が少し緩やかになっています.これはモータのコイルの逆起電力によるものです.ここでスイッチの切り替え(スイッチング)の周期(スイッチング周期)をさらに高速で行い、ONにして出力電圧が上がりきる前にOFFへ、出力電圧が下がりきる前にONにすると以下のような波形になります.
出力電圧V_outは少しギザギザになっていますが、端子間電圧V_ABの12Vから降圧して出力電圧は6Vになっています.このように高速なスイッチの切り替えで出力を制御する方法をパルス制御法といい、特に、スイッチング周期を変えずにON/OFF時間の割合(デューティ比)を変えて制御することをPWM(pulse width modulation)制御といいます.今回のMDはHブリッジ回路のPWM制御を使うことにします.
4. パワーデバイス
MDでは出力をスイッチで制御すると書きましたが、実際のスイッチを使うわけにはいきません.電気的に高速でON/OFFができる効率的な半導体素子を使います.そして、モータなどの強い電力を扱う半導体素子をパワーデバイスといい、特にスイッチングで使用するものをスイッチングデバイスといいます.スイッチングデバイスにはいくつか種類があり、バイポーラトランジスタ(BJT)やMOSFET、IGBTの3つが有名です.
半導体素子は見た目が千差万別なので以上の画像の限りではありません.それぞれの素子の違いや特徴はいろいろありますが、簡単に言うと扱える電力の規模がBJT<MOSFET<IGBTであると思ってください.今回は出力の規模からMOSFETを使用します.
MOSFETは図のように回路上で表記され、端子は3つありそれぞれゲートG、ドレインD、ソースSといいます.ゲートGに電圧をかけて(ゲート電圧)電荷をためると(ゲート電荷)ドレインDからソースSに電流が流れるようになります.
MOSFETは半導体の接合方法の違いでNch型とPch型に分かれていて、パワーデバイスとしての性能や扱いやすさから一般にはNch型が多く使われています.今回使用するMOSFETは全てNch型になります.大きな違いとして、N型はゲート・ソース間電圧$V_{GS}$が一定以上の正電圧のとき、Pch型は負電圧のときONになります.このONになるための条件は、Hブリッジ回路の電圧が高い側(ハイサイド)のMOSFETにとって少し問題になってきます.
以上の図のように、Nch型のMOSFET負荷がハイサイドの場合、MOSFETのソース電圧は0Vなのでゲート電圧はゲート・ソース間電圧でONになります.ですが、負荷がローサイドの場合、ソースの電圧はMOSFETのわずかな内部抵抗で降下するのみでほとんど電源電圧と変わりません.よってゲート電圧は電源電圧+ゲート・ソース間電圧となり、電源電圧よりも高い電圧が必要になります.
5. ゲートドライバ
Hブリッジ回路のハイサイドMOSFETのゲート電圧は、電源電圧より高い電圧が必要になることがわかりました.このためにわざわざ昇圧回路を用意するのは面倒なので、ブーストラップ回路という回路を使用します.
以上の図に示したのがブーストラップ回路です.まず、PWM信号の電圧が低い(LOW)のとき、左側にあるバイポーラトランジスタ(BJT)のP型がOFFでN型がONになります.すると、MOSFETのゲート電荷が抵抗R_G、NchBJT、抵抗Rを通ってGNDに流れ出ることにより、MOSFETがOFFになります.同時に、12VからダイオードDを通じてコンデンサCが充電されます.次に、PWM信号の電圧が高い(HIGH)のとき、BJTのP型がONでN型がOFFになります.すると、ダイオードDからの12Vとコンデンサ電圧の12Vが合わさり、PchBJTと抵抗R_Gを通じてゲートに約24Vが加わります.これで、十分なゲート電圧が生じるのでMOSFETはONになります. ブーストラップ回路などのゲート電圧のための回路をわざわざ作るのは大変です.そこで、パワーデバイスのゲート電圧の生成や管理をするための回路にゲートドライバ(以下GD)というICが市販されています.特に、Hブリッジ回路の片側分のGDをハーフブリッジGD、両側分をフルブリッジGDといいます.
GDはパワーデバイスのON/OFFだけでなく、モータの動作に関する様々な機能が実装されているものが多いので、ぜひ使ってみてください.ハーフGDとフルGDは秋月電子などで簡単に入手することができます.
ブログ開設しました
はじめまして、ブログ主のシュタールです.新しくブログを開設しました.
このブログでは、個人でロボットを作るための技術を具体的にまとめて記事にしていきます.機械・機構や回路などのハード面についてが多くなる予定です.なるべく濃い内容を月一で更新することが目標になります.